【書評】「具体ー抽象」トレーニング 思考力が飛躍的にアップする29問 著者:細谷 功

「人間の真髄は何処にあると思いますか?」と問われた時、皆様は何と答えますか?

この本は正に「人間の真髄」について説明をする為に生まれて来た。…この本を読んで、私はそう感じました。

人の真髄(他の動物との違い)は、「知を発展出来た事にある」。この考えは、多くの人が認めている事と思います。
では、その「知の発展は」どうして出来たのでしょう?

著者は、この本で「知の発展の理由」について、以下の様に説明しています。

【人間の知は、単なる量的な拡大だけではなく、質的な発展も遂げて来ました。簡単に言えば、それは様々な「法則の発見」であり、また「言葉や数と言った抽象概念の発展」です。】

重要な事は、人間が「抽象化する力を持った」事により、言葉や数のような抽象概念を発明・操作できるようになった事にある。…という事です。
それは、現実の世界では見えない虚構の世界を自由に構築・駆使し、現実世界をコントロール出来る力を持つようになった事を意味します。私はこの本を読んで、人間の知の発展の歴史は「いかに抽象化思考レベルを引き上げるか?という事との格闘の歴史」だったのだな!と理解しました。

尚、この「抽象」という言葉を理解するためには、抽象の対極にある「具体」との一対で理解する事が必要になります。なぜ「具体と抽象」をセットにするかと言うと、「具体と抽象」は相対的な概念だからです。「対比=比較」によって「どちらが具体で、どちらが抽象か」が決まるので、片一方のみでは論が立たないのです。

この対比を分かり易く説明をすると、例えば飛行機は「大きいか?小さいか」と問われた時、「何に対してか」という比較対象がないと、大きいとも、小さいとも言えませんよね。つまり「飛行機は人に較べれば大きい」、「飛行機は地球に較べれば小さい」…と「大きい、小さい」は「何に対して」かを定義する事で決定するという事です。

「具体と抽象」も上記「大小」と同様に「関係性」を示すものなので、二つ以上の物を対比(例:具体→特殊と抽象→一般)する事で、「こちらは具体」「こちらは抽象」…と定義される事に成るのです。

上記の意味で、この本では「抽象の力」について、具体とセットし「具体と抽象」と比較をする事で、分かり易く説明されております。ただ、抽象概念を取り扱うのは「人により得意・不得意がありそうで、決して易しいことではない」とも感じました。

著者もこの本で、抽象概念を操作する「具体と抽象」の軸は分かり難く「理解している人は限られている」と述べておりますが、正直私も抽象概念を消化するには、一度読んだだけでは”とても無理!時間が必要”、と感じました。

ただ、確かに抽象を理解するのは難しい事ですが、今使用している言葉自体が抽象の産物であり、我々は抽象化されたツールを使わずしてコミュニケーションが成り立たない世界で生きています。その上、著者曰く『「具体と抽象」への未理解が、お互いの議論のすれ違いに気付かない不毛な議論を呼び込み、無用な軋轢を引き起こしてしまっている』との事なので、コミュニケーションギャップの発生回避の為には「抽象を理解し、手の内に入れる事」が必要なのだろう。…と感じています。

そこで、本書より具象と抽象のすれ違いによる、上記のコミュニケーションギャップ発生の例を取り上げてみます。

【凶悪事件が起こった際に良く交わされる対立する不毛な議論】

 Aさんの主張:「加害者の人権も認めるべきだ」
 Bさんの主張:「お前は自分の家族が被害者でも同じことが言えるのか?」

皆様も一度は、このようなやり取り(構図)を見かけた事があるのではないかと思います。

Aさんの論は、良くも悪くも一般論で抽象度の高い話となります。一方、Bさんの論は、個別で具体的な話という事になります。この議論は「1階で話されている具体論と2階で話されている抽象論」の間で、お互いの姿が見えていない状態での空中戦である。…つまり、主張の立脚点の違いを理解しない限り、永遠に議論はすれ違い、答えは見いだせないという事が分かります。

この一見交わる事の出来ないと見える問題も、「具体と抽象」という視点のすれ違いが原因で引き起こされている事を自覚できれば、「問題点の本質や解決への道筋が見えて来る」という事が期待できます。
そして著者は、「具体と抽象」という視点がない為に、すれ違うコミュニケーションギャップが他にも多くあると指摘しています。

こういう例題を見ると、単に食わず嫌い的に「理解し難いから嫌」と抽象を避けるのではなく、ギャップに気付く新しい視点を身に付けられるという意味で『積極的に抽象を学ぶ事で「抽象への深い理解」を自分の武器に加える』方が良いのではないか。と考えさせられます。

ここで、もう一つ本書から「具体と抽象」を仕事に応用する事例として【「上司から部下へ仕事を依頼する時の上司の注意点」】を取り上げてみます。

ここでの「具体と抽象」の見るべきポイントは、仕事を頼む・頼まれる上での「具体的依頼」と「抽象的依頼」に含まれる「自由度の違い」の要素が着目点です。

「抽象的依頼」は、上司が「やり方は君に任せる」と仕事の進め方を指示せず、部下に仕事を一任する形を取ります。この依頼の形は、部下が自分の意思を反映する事が出来るので、仕事の進め方の自由度が高くなります。一方「具体的依頼」は、上司が「やり方までも細かく指示」する仕事の依頼のし方なので、部下は自分の意思を反映できず、仕事の進め方の自由度はほとんど無くなります。

ここでの注意すべき点は、仕事を依頼する上司は依頼する部下に対し、相手の力量や成長への期待度に合わせてどの程度の自由度を与えるべきかを見誤らない事です。要は「部下の力量を見極めた上で、適切な自由度を与えるべき」だ。…という事です。そこを仕事を依頼する上司が見誤ると、依頼した部下との信頼関係を損なう事に繋がってしまいます。

この「仕事の依頼の仕方=伝え方」を著者は、上司から部下への仕事の「バトンパス」と表現しています。「バトンパス」のパターンは4つ。

①:依頼する側の指示が具体的で、依頼される側の期待も具体的。→慣れていない初心者(部下)向けのバトンパスのパターンで、上司・部下とも具体的である事の必要性を感じているので、お互に望む伝え方のOKパターンです。

②:依頼する側の指示が抽象的だが、依頼される側の期待は具体的。→仕事の進め方も含め全部を任せたいと考える依頼人(上司)と、もっと仕事を具体的に指示て欲しいと考える依頼を受ける側(部下)の、バトンパスに齟齬がある伝え方NGパターン(1型)です。

③:依頼する側の指示が具体的だが、依頼される側の期待は抽象的。→まだまだこの部下には仕事を任せきれないと考え、具体的に指示する仕事の依頼人(上司)と、もっと自分を信頼して仕事を任せて欲しいと考える受ける側(部下)の、バトンパスに齟齬がある伝え方のNGパターン(2型)です。

④:依頼する側の指示が抽象的で依頼される側の期待も抽象的。→信頼している相手(部下)、伸びて欲しい相手(部下)向けのバトンパスのパターンで、お互いに実力を認め合い、一任する、一任される事が当たり前な伝え方OKパターンです。

以上の様に、伝え方思考の中には、気付かない「具体と抽象」のすれ違いが隠れています。多くの人はこの事を知らずに相手に伝えているが為、コミュニケーションギャップを発生させ、無用な軋轢を生んでしまいます。そして残念ながら、なぜ「相手とのコミュニケーションが上手くいかなかったのか?」原因も掴めていないから、対処する事も出来ないのです。

この本を読みながら「具体と抽象」という視点には、今まで自分の中で説明できなかった問題に対するアプローチ方法があるような感じがしています。「具体と抽象」を学ぶ事で、思考の落とし穴や相手の思考と自分の思考のミスマッチに気付き、クリアな対話力を得られるかもしれない。
そんな期待を感じながら、この本を読み終えました。

本を読んだ率直な印象としては「具体と抽象」は正直、理解し使いこなすのは、とても難しいのかなと感じました。でも、具体的事例から本質を見出すという抽象化能力や、抽象化された本質を具体的行動に展開出来る具体化能力を持つ事は、仕事をする人に求められる必須事項です。そして高度な仕事になる程、それが要求されます。

もっと「考える力を付けたい」とお悩みの方、もっと「思考の高み」に登ってみたいとお考えの方には、複雑・曖昧な思考問題に切り込めるこの視点に触れてみる事をおススメしたと思います。
是非、読んでみて欲しい一冊です。

早くも12月に突入して、今年ももう僅かですね!
やはり12月は、1年の締めくくりで有り来年の準備も行う月なので、どうしても色々な仕事に追われてしまいます。
忙しい時期ですが、やはりやっておきたい事の一つは、今年1年の反省とその「反省を土台に来年に向けての指針」を考える事です。

皆様の今年1年はどうでしたか?上々な出来でしたか?それとも、悔しくて言いたくもない1年でしたか?それとも、何もしないで終わった一年でしたか?
たとえどんな形に終わったとしても、結果に向き合い来年の生き方、戦略を考えたいものですね!

では、私はどうだったのかと言うと、この1年、正直モチベーションの維持におおいに苦労しました。
ブログ作成も二年目に突入し、普通ならば余裕が出るのでないかと思っていましたが、逆に進む方向を見失いがちになっているのに気付いたのです。

1週に1回投稿したいという気持ちと裏腹に「書けば良いと言う訳ではないだろう!」という内部の声が上がる。いわゆる気持ちの二律背反状態が起きて、モチベーションが下がってしまったのです。
当然、方向に迷いが出ると筆が進まない、だから書く時間を楽しめず書く時間が少なくなる。いわゆる悪循環ですね。

そんな状態が続いていたのですが、今は少し居直って、投稿間隔が空く事に恐れず「自分の中で考えが熟成するのを待とう!」というスタンスに、ハードルを下げています。そして、とにかく続ける事を最優先事項として日々を送っています。

このブログをお読みいただく方には申し訳ないのですが、定期投稿でなく出来上がったら投稿するというスタンスはしばらく続きそうです。
ただ、辞めるつもりはないので、お時間の空いた時にご訪問頂けると幸いです。

尚、今年もまだ三週間あるのでもう少し考え、来年への指針を立てて行きたいと思います。ただいま模索中です!

2022年12月10日記

本の明細
著書名:「具体ー抽象」トレーニング 
著者名:細谷 功
発行所:㈱PHP研究所
第1刷発行日:2020年3月31日
定価:890円+税

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