【書評】私とは何か 「個人」から「分人」へ 著者:平野啓一郎

「分人」とは、著者の作った「人を表す新しい概念」です。
人というのは『分ける事が出来ない単位「一つの自我を持った個人」である』というのが、人を表す基本的な概念となっていますが、個人より小さい単位「分人」という単位を導入し、『人はその小さい単位「分人」の集合体である』と考え、新たな視点で人を説明する為に考えられた概念です。

この「分人」というのは、「対人関係ごとに見せる、人の複数の顔=分人」の事で、相手との反復的なコミュニケーションを通じて、自分の中に形成されてゆくパターン的人格を指し、「その顔全てが本当の自分」と捉えます。

この「分人」を数学で例えてみれば、個人を整数の1とするなら、分人は、分数とイメージします。
これを、私という人間に当てはめると、私という人間は、対人関係ごとのいくつかの分人により構成されており、その人らしさ(個性)というものは、その複数の分人の構成比率(重要度?)によって決定される。

長々と説明してしまいましたが、新しい概念の為、「分人」のイメージ(定義)なしには、理解不能になると考え説明させて頂きました。
著者曰く、実感を伝える為には言葉が必要なので、ここで使う「分人」という用語は、その「実感を分析する道具」という役目を担う言葉に過ぎないとの事です。

では、著者は「分人」という概念で何を提示したいのでしょうか?
その事を文中から拾うと、「私たちは現在、どういう世界をどんな風に生きていて、その現実をどう整理すれば、より生きやすくなるのか?、自分はこれからどう生きるべきか?」それを「分人」という道具(概念)で解き明かし提示したい。
といっております。

上記の裏には、「私とは何か?」という自分への問い掛けが有り、その疑問の答えを探している。…という事を私は感じています。
つまり、私はこの本の内容を「分人の集合体が、私という存在」という『「私とは何か?」への回答としての仮説』を立て、それを立証し、説明する為に書かれた著作本と位置ずけています。

実は私も、実現力を追求する過程で、「自己実現の自己とは何か?」という解き明かすべき同じテーマを抱えているので、この本のテーマの本質に同様な悩みを感じるのです。
この本における「私とは何か?」というテーマは「自己実現の自己」そのものです。

自己実現するという事は、「実現する自己」が何か?が、見えている事が前提となります。
自己が曖昧なのに自己実現なんて出来る訳がないのです。

それが故に、この本は『「分人の集合体が個人=自己」という仮説を立て、「個人・自己」を説明しようとした試み』と、総括して良いのではないかと考えていまです。

私という本質を掴む事が出来れば、自分は何を追求すべきか、何をなすべきかの指標となり、自分が進む方向を指し示してくれます。
その意味で、よく自分は何をやりたいのか?、自分は何をやるべきか?という「自分探し」は、「私とは何か?」「私とは何者であるのか?」の結論の上にある物と思われます。…もっと深く思考が必要ですが・・・。

話を変えて、この「分人」の概念の良さは、ネガティヴな気持ちに陥行った時に発揮されると考えられます。
自分の中に10人の「分人」がいると仮定して話をすると、10人の「分人」の内1人の「分人」が失敗をして落ち込んだとしても、あくまでも1/10の衝撃であり、最悪はその一人の「分人」を切り離せばよいという事で、軟着陸が出来ます。
でも、一人の個人として、問題処理しようとする際は、「その問題は別」と切り離せないので、その問題を乗り越える必要が生じ、最悪考えが煮詰まってしまえば、自殺にも繋がる深刻な事態を引き起こす事も予想されます。

上記を考えると、「分人」という考え方は、失敗は自分の一部であり自分全体を評価するものではない!、と深刻になる事なく冷静に自分を見つめる事を可能にしてくれます。

「分人」という考えを評価するには、この一冊のみで評価するのは難しいと思っています。
でも「私って何か?」という事を考えさせてくれる良い機会となりました。
又、「自己とは何か?」を考える上でも、とても参考になりました。

皆さんも、いまの自分を見つめ直す機会として読んでみませんか?

私という存在は、目で見えないし、手に取る事が出来ないので、常にもどかしさを感じます。
でも、その実像を掴む事なくして、選択が出来ないことも多く有ります。
だから、諦めずにその姿を探して行きたいと考えます。
ただ最近は、私とは探す物ではなく、自分の美意識の下、創り上げる物。
そう思う気持ちが強くなっています。
2021年9月12日記

本の明細
著書名:私とは何か 「個人」から「分人」へ
著者名:平野啓一郎
発行所:㈱講談社
第1刷発行日:2012年9月20日
定価:740円+税




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